シカゴ大学の大学警察と人種的プロファイリング、そして学生による対抗戦略

二日前に大学で開催された You Fit the Description (Facebook event) というイベントに参加して来た。これは、大学警察(普通の警察とは違って、大学に付いている警察機関。実際は普通の警察官が訓練を受けて修了証をもらうと大学警察で働けるので、あまり中身は変わらないけれど)の大学キャンパス内での仕事のやり方と、それが人種的マイノリティにとって何を意味するのかについて学生同士で話し合うというイベント。

イベントを主催した学生たちによると、過去18ヶ月のあいだにシカゴ大学の大学警察が逮捕した人数のうち50%以上が黒人あるいはラティーノ・ラティーナだったと言う。「大学全体では10.4%しかいない黒人・ラティーナ・ラティーノの学生がこれだけ高い被逮捕率になるのは変だよね?」というのが、イベントの Facebook ページにも書いてある。

Facebook ページにはさらに、

実際に Independent Review Committee という大学警察からは独立した機関が、去年「黒人学生は本大学の大学警察によって学生証を見せろと言われることが、白人学生よりも多い」という結論を発表した。更に、大学警察についてのクレームを出す学生も黒人学生からのものが異常に多いとも発表した。

去年は更に、学部4年生の黒人男性学生を大学警察が「不法侵入及び公務執行妨害」で逮捕し、一晩留置場に入れた。しかしこの「罪」はすぐに取り下げられた。先月には、図書館近くにいた黒人男性学生を大学警察が呼び止め、「ノートパソコンを盗んだとされている犯人の特徴と似ているから、学生証を見せなさい」と迫った。

この学生は「大学警察による人種的偏見は、とんでもないとこまで来ている」、「白人の、アジア人の、あるいはネイティブアメリカンの学生のいったいどれだけの数が、この大学の人間だと証明するために学生証を見せろと言われているっていうんだ」と言っている。

とある。

ボクもこの大学の「安全」についてのポリシーには疑問を感じることが多かった*1ので、参加してみた(遅刻したけど)。

ディスカッションの前半は「いまどういう状況にあるのか」。つまり上記のようなことが起こっているということ、それらについての詳細、そしてその他参加者がこれまで経験したり見聞きしたことをシェアする時間。後半は「今後どういうことができるか」。ここでは色々な案が出たけれど、意見が割れることが多かったのが逆にすごくよかった。

意見の割れたトピックで重要だとボクが思ったのは、

  1. 「大学警察やシカゴ警察の警官から学生証を見せろと要求されたら抵抗せずに見せて、行儀よくして、警官の名前を聞いて(バッジを出させて)控えておく」という戦略が、仕方が無いことだけれども、ベストだ、という意見。
    • それに対して、学生証を見せないという抵抗くらいしか学生には出来ることがないんじゃないか、学生証を見せなきゃいけないことが問題なのに、結局「見せよう」という結論はおかしいんじゃないか、という意見。
  2. 大学警察がきちんと各警官の責任の所在を明らかにしない、調べたとしてもそれを可視化しないのが問題だから、かれらに透明性を要求することが大切だという意見。
    • それに対して、各警官の責任の所在が少なくとも大学警察内部では明らかになる仕組みになっているからこそ、現在の状況、つまりちょっとでも「怪しい」と思える人間がキャンパスにいたら学生証の提示を要求する(しないでいて、結局その付近でその「怪し」かった人が犯罪を犯したら、見過ごした警官の責任が問われるから)という状況が生まれているのではないか。大学警察に透明性を求めることは、更にそういうプレッシャーを与えて、人種的プロファイリングへのインセンティブを高めてしまうのではないか、という意見。

ちなみに一番最後の意見はボクが言ったんだけれど、そしたらそこから議論が急展開して、「有色人種としては自分が人種的プロファイリングの標的になるのはいや、だけど学生としては警察に身を守ってもらいたい」というジレンマについて、そして最終的にはシカゴ大学の学生である自分たちの責任はどのように受け止めるべきかというところまで発展した。

人への突っ込みしかしてなかったのかよ、ネット上と同じだなお前、と思われそうなので(笑/えない)、ボクが当日思いついて話したアイディアは以下の通り。

  1. 大学がもっと貧困層や有色人種の多い学校からの学生の受け入れに積極的になるべきだし、わたしたちもそういう学校に行って大学を宣伝したり、学生をキャンパスに連れて来たりしてシカゴ大学全体の有色人種の割合を増やそう、というもの。すごい長期的なプランになるけれど、多くの有色人種がいれば大学警察による人種的プロファイリングは難しくなるはず。ここから、誰かが「割合が増えれば、『シカゴ大学の学生っぽさ』から『白人』という要素が薄まるよな」と言って、いかに有色人種の学生が「ここに所属していない感じ」を感じさせられる環境であるかに話が流れた。
  2. 「学生証無携帯週間」と称して、一週間のあいだ学生証を携帯するのをやめよう!と学生に呼びかけるイベント。バスで学生証の提示を求められるのも見事に見た目の人種によって頻度が違うのだけれど、まあ時々は求められる。図書館は学生証がないと入れない。でも「忘れちゃいました」と言えば何とかなったりするのだけれど、かなりの人数が「忘れちゃいました」と言った時にどういう対応が行われるのかを見ることが出来る。更に、学生に呼びかける際にこの問題について周知することが出来る。そして恐らく最も重要なのは、このイベントの告知を大学や大学警察に対しても行うことで、「学生が怒っている」ということを示せるということだと思う。ま、それでもその一週間のあいだに大学警察が声をかけて学生証提示を求める相手は黒人が多くて、結局このイベントに参加する学生のあいだでも人種によってトラブルが起こる確率が高いのは黒人なのだけれど…(というわけで、自己完結的にこのアイディアはボツ)。でも、代替案として友人が出した「学生証を必要以上に提示しまくる週間」ってのは、ちょっとどうかと思う。この近辺の中で大学周りだけが白人だらけで裕福な人ばかりという状況なのだから、学生証を提示しまくる行為は大学関係者ではない住民との違いを単に強調してしまうだけかもしれないし。この辺はまぁ、色々今後話し合うべきことだね。

そんなわけで、水曜にあったイベントの報告でした。